亥(い)は、突き進むだけの干支ではない

日本神話・日本文化 / Japanese Mythology and Culture

いのししと聞いて、多くの人が思い浮かべるのは
「一直線」「猪突猛進」「止まらない」といった姿かもしれない。

前を見据え、
脇目も振らず、
力強く突き進む存在。

十二支の最後に置かれ、
勢いの象徴として語られることも多い。

けれど本当に、
亥は「突き進むだけ」の干支なのだろうか。


戌の次に来る理由

戌は、
形になったものを守り、
崩れないように立ち続けた。

世界は、
一度、安定を迎えている。

だが、
守るだけでは循環は終わってしまう。

次の始まりへ向かうには、
もう一度、
力を解き放つ必要がある。

そこで置かれているのが、亥だ。

亥は、
溜め込まれたすべてを前へ押し出す役

終わりであり、
同時に始まりへとつながる存在である。


亥が象徴するもの

亥が象徴するのは、
無鉄砲さではなく覚悟

いのししは、
無計画に走るわけではない。

森を知り、
道を知り、
それでもなお進む。

止まる理由がないからではなく、
進むと決めているから進む

亥は、
ためらいを越えた先の力を引き受けている。


「亥」の文字が示すもの

「亥」という字には、
閉じる、
包む、
次へ備える、
といった意味がある。

一見すると、
勢いとは正反対の意味だ。

けれど、
すべてを出し切ったあと、
また次の始まりに備える。

亥は、
終わりを完成させる干支なのだ。


写真のいのししが語ること

写真のいのししは、
動いてはいない。

小さく、
静かで、
どこか慎重に見える。

だが、
その姿には迷いがない。

このいのししは、
今まさに走り出す直前ではなく、
走り切ることを知っている存在に見える。

それが、亥の本当の姿だ。


突き進むという決断

亥は、
最後に進む。

すべてを見届け、
すべてを引き受けたうえで、
前へ出る。

それは、
勢いではなく決断だ。

もう戻らないと決めること。
次へ渡すと決めること。

亥は、
物語を終わらせるために進む干支である。


亥の年に生まれた人へ

亥年は、
覚悟を問われる年だ。

準備はもう終わっている。
考える時間も、十分にあった。

あとは、
一歩踏み出すだけ。

亥は、
「終わらせることは、始めることだ」
ということを知っている。

あなたが進むその一歩は、
次の循環を生み出す。


ねずみが始め、
丑が支え、
寅が前に出て、
卯が広げ、
巳が内に収め、
辰が流れを起こし、
午が走らせ、
未が受け止め、
申が試し、
酉が整え、
戌が守ったあと。

亥は、
そのすべてを背負い、
迷いなく前へ進む。

十二支は、
円を描く物語だ。

終わりは、
いつも次の始まりにつながっている。

亥は、
その扉を開く最後の存在なのである。