宿泊地の屈斜路湖から知床半島へ

道東は、日本に住んでいてもどこか遠い。
北海道と聞いて思い浮かべる場所は多くても、道東まで足を運ぶ人は決して多くない。
私にとっても、屈斜路湖(くっしゃろこ)は「昔行ったことがある場所」だった。
最後に訪れたのは、道東で仕事をしていた時だから、もう35年ほど前になる。

久しぶりに立った 美幌峠 からの眺めは、驚くほど静かだった。
湖は広く、空は高く、音がほとんどない。
記憶の中の屈斜路湖よりも、ずっと穏やかで、ずっと遠く感じられた。
眼下に広がる 屈斜路湖 は、日本最大のカルデラ湖だ。
数字で知っていても、実際に見ると「大きい」という言葉では足りない。
湖というより、ひとつの風景そのものが横たわっているようだった。

展望地に立つ標柱や記念碑には、変わらない名前が刻まれている。
けれど、その文字を読む自分は、35年前とはまったく違う。
風景は残り、人だけが時間を背負って戻ってくる。

峠を下りると、まっすぐに伸びる道と畑、遠くの山並みが続く。
道東らしいこの景色も、説明はいらない。
広さと静けさだけで、十分に伝わる。
観光地でありながら、どこか生活の延長にあるような風景。
それが道東であり、屈斜路湖なのだと思う。
35年ぶりに訪れて分かったのは、
「何も変わっていない」ことではなく、
変わらない風景を、違う自分が見ているという事実だった。
この湖は、またいつか、静かに迎えてくれるだろう。
今度は、何年後になるのか分からないけれど。

