以前とは様変わりしていた知床半島

知床五湖を訪れるのは、実に35年ぶりだった。
当時訪れた知床五湖は紅葉が盛りで、羅臼岳(らうすだけ)に雪が積もっている絶好の撮影時期だったことを思い出す。
かつての記憶にある知床は、もっと素朴で、ただ「自然の中を歩く場所」という印象だったが、今回歩いてみて、その姿が大きく変わっていることに驚かされた。
まず目に入ったのは、高架木道の存在だ。
以前はなかったこの構造物は、景色を楽しむためだけのものではない。ヒグマの生息域に人が踏み込まないための、明確な境界線でもある。自然が守られているというより、「人が守られている」という感覚の方が近いかもしれない。

実際、案内板には「ヒグマ活動期」の文字がはっきりと書かれていた。
地上遊歩道は制限され、歩けるルートも管理されたものになっている。35年という時間の中で、ヒグマが人里近くまで来るようになったのか、それとも人の側がより慎重になったのか——その答えは簡単ではないが、知床が今も“本物の野生”であることだけは間違いない。
歩いてみて、もう一つ強く印象に残ったのが距離の長さと暑さだった。
想像以上に歩く距離があり、しかもこの日はかなり暑い。
「知床=涼しい」というイメージは、完全に裏切られた。照りつける日差しの中を歩き続けるのは、正直なところ楽ではなかった。

それでも、目の前に広がる風景は圧倒的だ。
湿原の緑、静かな湖面、遠くに連なる知床連山。
人の手が極力入らないよう管理された空間だからこそ、自然の密度が濃く感じられる。

そして最後に、駐車場付近でエゾシカが姿を見せた。
観光地の「締め」に用意されたかのような光景だが、もちろん演出ではない。
人のすぐそばに、野生動物が普通に存在している——それが今の知床なのだ。
35年ぶりに訪れた知床五湖は、
懐かしさよりも、「変わった」という実感の方が強かった。
だがその変化は、自然が失われた結果ではない。
人が自然とどう向き合うかを、改めて考えさせられる場所になっていた。
追記|フィルム時代の知床五湖


— 紅葉と、雪をまとった知床連山 —
今回歩いた 知床五湖 には、
もうひとつ、忘れられない記憶がある。
35年前、フィルムカメラで撮影した知床五湖は、
ちょうど紅葉が最盛期を迎え、知床連山の上部にはうっすらと雪が乗っていた。
秋と冬が同時に存在する、あの季節特有の空気は、今でもはっきり覚えている。
当時プリントした写真を、今回あらためてデジタル一眼で撮り直してみた。
完璧なスキャンではないが、不思議なことに、
フィルムの柔らかさや、あの頃の静けさはそのまま残っているように感じる。
暑さの中を歩いた現在の知床五湖と、
紅葉と初雪が同居していた過去の知床五湖。
同じ場所でも、時間が変われば、風景はまったく違う。
それでも変わらないのは、
この場所が、いつの時代も人より自然の方が主役であるということなのだと思う。

