静かな海の観音さま ― 阿伏兎観音と、安産のお守りの小さな話

日本神話・日本文化 / Japanese Mythology and Culture

海に突き出した観音堂

広島県福山市の海沿いにある阿伏兎観音(あぶとかんのん)は、
初めて見ると少し不思議な場所に建っている。

岩の上に、まるで海にせり出すように立つ朱塗りの観音堂。
観光地というより、「なぜここに?」と思わせる佇まいだ。
この日は空も海も穏やかで、
遠くから見る観音堂は、静かに海を見守っているようだった。

人の声はほとんど聞こえない。
波の音だけが、ずっと続いている。

阿伏兎観音は、平安時代に創建されたと伝えられている。
正確な年号は分からないが、千年近く前から、この岩の上で人の祈りを受け止めてきた場所だ。

回廊と瀬戸内海

堂内へ入ると、朱色の回廊が海の上に延びている。
足元には「土足厳禁」の札。
木の床を歩くと、少しだけ軋む音がした。

欄干の向こうは、すぐ海で少し怖い

観光地でよく見る賑やかさはなく、
ここは「参る場所」なのだと、自然に分かる。

誰もいない回廊を、ゆっくり歩く。
何かをお願いするというより、
ただ静かに手を合わせたくなる空気があった。

安産のお守りと、あとから聞いた話

阿伏兎観音は、安産や子授けで知られている。
奉納されている絵馬やお守りを見ると、
今も信仰が続いている場所だということが伝わってくる。

少し前のことだが、
たまたま安産のお守りを、仕事で顔を合わせる女性たちに渡したことがあった。
あとで聞くと、みなさん無事に出産され、とても喜んでいたという。

大きな出来事でも、特別な話でもない。
けれど、こういう話が自然に残っていく場所なのだと思う