羽子板といえば、正月の縁起物。
子どもの頃、どこかで目にした記憶がある人も多いと思う。
けれど、あらためて近くで見てみると、
それは「飾り」という言葉では少し足りないほど、
手の込んだ立体工芸だった。
押絵の技法で作られた、女性を描いた羽子板。布の重なりが立体感を生む。

羽子板はもともと、正月に行われていた羽根突きの道具だった。
江戸時代になると、次第に実用性よりも装飾性が重視され、
現在のような観賞用の羽子板が作られるようになった。
特に女の子の健やかな成長を願う縁起物として親しまれ、
魔除けや福を招く意味を持つものとして、正月に飾られてきた。
羽子板のどこが特別なのか
さまざまな意匠の羽子板が並ぶ展示。人物表現の違いが際立つ。

羽子板の最大の特徴は「押絵(おしえ)」と呼ばれる技法にある。
紙や綿を重ね、その上から布を張ることで、
平面でありながらも、はっきりとした立体感が生まれる。
顔は一つひとつ手描きで、
衣装には実際の着物地や金襴が使われることも多い。
よく見ると、
- 表情の作り方
- 布の重なり方
- 髪飾りや金の使い方
そのすべてが微妙に異なり、
同じ羽子板は二つとして存在しないことに気づく。
民芸から、収集される工芸へ
歌舞伎の人物をモチーフにした羽子板。誇張された表情が印象的。

子板の題材として多く用いられてきたのが、歌舞伎の登場人物だ。
誇張された表情や化粧、動きのある構図は、
立体表現との相性が非常に良い。
こうした要素によって、羽子板は単なる正月飾りを超え、
鑑賞され、集められる工芸品としての価値を持つようになった。
現在では、国内外のコレクターや美術愛好家からも
日本独自の造形文化として注目されている。
写真から伝わる、日本の時間感覚
羽子板を見ていると、
そこには急いで作られた気配がまったくない。
一つひとつの工程に手間がかかり、
完成までには相応の時間が必要だったはずだ。
季節の行事に合わせ、
毎年、変わらず作られ、飾られてきたもの。
羽子板は、
日本人が大切にしてきた
時間の積み重ねそのものを、静かに伝えているように感じる。
